ページ [4] 5 6 7 8 ...

  •  道路交通法四二条の徐行義務と同法三六条による優先通行権との関係

S45.01.27 最高(三小)判 事件番号 昭44(オ)289

  • 判決
    • なるほど,前記事実によれば,本件交差点は,法四二条にいうような交通整理の行なわれていない交差点で左右の見通しのきかないものではあるが,

      しかし,原判決も説示するように,本件上告車の進行道路の幅員は七・六五米で,被上告車進行道路の幅員四・五米(東側道路は幅員三・六米)より明らかに広いのであるから,法三六条により上告車に優先通行権が認められるのであつて,

      このような場合,優先通行権者であるDは,法四二条所定の徐行義務すなわち直ちに停止することができるような速度(法二条二〇号)で進行する義務を負わないものと解するのが相当であつて(当裁判所昭和四二年(あ)第二一一号同四三年七月十六日第三小法廷判決,刑集二二巻七号三一七頁,当裁判所昭和四二年(あ)第二八八五号同四三年一一月一五日第二小法廷判決,刑事裁判集一六九号四四九頁参照),

      このことは,前記のように,先行するマイクロバスが本件交差点で左折中のため,さらに見通しが悪くなつたことによつて左右されるものではない。

  • 自動車損害賠償保障法三条但書による免責と主張・立証すべき事項

S45.01.22 最高(一小)判 事件番号 昭43(オ)1057

  • 判決
    • そこで考えるに,自己のため自動車を連行の用に供する者が,その連行によつて他人の生命または身体を害し,よつて損害を生じた場合でも,右運行供用者において,法三条但書所定の免責要件事実を主張立証したときは,損害賠償の責を免れるのであるが,

      しかし,右要件事実のうちある要件事実の存否が,当該事故発生と関係のない場合においても,なおかつ,該要件事実を主張立証しなければ免責されないとまで解する必要はなく,

      このような場合,連行供用者は,右要件事実の存否は当該事故と関係がない旨を主張立証すれば足り,つねに右但書所定の要件事実のすべてを主張立証する必要はないと解するのが相当である。

  •  事故死の被害者の喪失する将来得べかりし利益を確定することができないとした判断と経験則違背の違法の有無

S44.12.23 最高(三小)判 事件番号 昭44(オ)738

  • 判決
    • 原審の確定した原判示の事実関係,とくに,訴外Dは本件事故死の当時同人自身の生活費として一ケ月に少なくとも金八,二五〇円を要したものであるところ,

      同人は病弱にして勤労意欲に乏しく,かつ,昼間から飲酒にふけることもあつて,同人の右事故死の当時の収入額は右生活費の金額にも満たなかつた,という事実関係は,挙示の証拠関係に照らして,首肯することができないわけではない。

      そして,右事実関係のもとにおいて,右Dが右事故死の結果喪失した将来得べかりし利益の存在ないし金額はたやすく認定することができない,とした原審の判断は,正当として是認することができないわけではない。

      原判決に所論の違法はなく,論旨は,ひつきよう,原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を争い,または,原審の認定にそわない事実関係を前提として原判決を非難するものにすぎず,採用することができない。

  • 不法行為による慰籍料請求権は相続の対象となるか

S44.10.31 最高(二小)判 事件番号 昭44(オ)555

  • 判決
    • 不法行為にもとづく慰藉料の請求権は,被害者本人が慰藉料を請求する旨の意思表示をしなくても,当然に発生し,これを放棄し,免除する等の特別の事情のないかぎり,

      その被害者の相続人においてこれを相続することができるものであることは,当裁判所の判例(昭和三八年(オ)第一四〇八号同四二年一一月一日大法廷判決・民集二一巻九号二二四九頁以下参照。)とするところであつて,これと同旨の見解に立つ原審の判断は,正当である。

  • 自動車修理業者が修理のため預かつた自動車の運行による事故と修理業者の自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任

S44.09.12 最高(二小)判 事件番号 昭44(オ)456

  • 判決
    • 原審の適法に確定したところによれば、本件事故は、自動車修理業を営む上告人が訴外D組合から修理のため預かり保管中の加害自動車を、上告人の被用者である訴外Eが運転中に引き起こしたものであるというのであるところ、

      一般に、自動車修理業者が修理のため自動車を預かつた場合には、少なくとも修理や試運転に必要な範囲での運転行為を委ねられ、営業上自己の支配下に置いているものと解すべきであり、かつ、

      その被用者によつて右保管中の車が運転された場合には、その運行は、特段の事情の認められないかぎり(被用者の私用のための無断運転行為であることは、原審認定のような事情のもとでは、ここにいう特段の事情にあたらない。)

      客観的には、使用者たる修理業者の右支配関係に基づき、その者のためにされたものと認めるのが相当であるから、

      上告人は、本件事故につき、自動車損害賠償保障法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者としての損害賠償責任を免れないものというべく、この点に関する原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。

  •  自動車損害賠償保障法三条にいう他人および民法七一五条一項にいう第三者にあたらないとされた事例

S44.03.28 最高(二小)判 事件番号 昭43(オ)1159

  • 判決
    • Dは正運転手として事故車を自ら運転すべき職責を有し,Eに運転させることを厳に禁止されていたのにかかわらず,右禁止の業務命令に反してEに事故車を運転させたものであり,

      その際Dは助手席に乗つていたものであること,Eは本件事故発生の一〇日前被上告会社に入社し高松から大阪に転入してきたもので,大阪の地理を知らず,そのため正運転者の運転する車に助手として乗りこまされていたものであり,

      そして,同人は事故車のような三輪自動車をそれまで運転したことがなく,本件事故当日Dから運転をすすめられたが,いつたん断わり,更にすすめられたため事故発生の数分前から運転席についたばかりで,地理が分らないまま助手席のDの指図どおり運転していたことは,原判決が適法に確定した事実である。

      そうとすれば,このような事実関係のもとにおいても,Dは,事故当時本件事故車の運転者であつたと解すべきであり,自動車損害賠償保障法三条所定の他人および民法七一五条一項所定の第三者にあたらないと解した原判決の判断は相当である

  • 不法行為による損害と墓碑建設および仏壇購入の費用

S44.02.28 最高(二小)判 事件番号 昭42(オ)1305

  • 判決
    • 人が死亡した場合にその遺族が墓碑,仏壇等をもつてその霊をまつることは,わが国の習俗において通常必要とされることであるから,

      家族のため祭祀を主宰すべき立場にある者が,不法行為によつて死亡した家族のため墓碑を建設し,仏壇を購入したときは,そのために支出した費用は,不法行為によつて生じた損害でないとはいえない。

      死が何人も早晩免れえない運命であり,死者の霊をまつることが当然にその遺族の責務とされることではあつても,不法行為のさいに当該遺族がその費用の支出を余儀なくされることは,ひとえに不法行為によつて生じた事態であつて,

      この理は,墓碑建設,仏壇購入の費用とその他の葬儀費用とにおいて何ら区別するいわれがないものというべきである(大審院大正一三年(オ)第七一八号同年一二月二日判決,民集三巻五二二頁参照)。

      したがつて,前記の立場にある遺族が,墓碑建設,仏壇購入のため費用を支出した場合には,その支出が社会通念上相当と認められる限度において,不法行為により通常生ずべき損害として,その賠償を加害者に対して請求することができるものと解するのが相当である。

      もつとも,その墓碑または仏壇が,当該死者のためばかりでなく,将来にわたりその家族ないし子孫の霊をもまつるために使用されるものである場合には,

      その建設ないし購入によつて他面では利益が将来に残存することとなるのであるから,そのために支出した費用の全額を不法行為によつて生じた損害と認めることはできない。

      しかし,そうだからといつて右の支出が不法行為と相当因果関係にないものというべきではなく,死者の年令,境遇,家族構成,社会的地位,職業等諸般の事情
      を斟酌して,社会の習俗上その霊をとむらうのに必要かつ相当と認められる費用の額が確定されるならば,

      その限度では損害の発生を否定することはできず,かつその確定は必ずしも不可能ではないと解されるのであるから,すべからく鑑定その他の方法を用いて右の額を確定し,その範囲で損害賠償の請求を認容すべきである。

  • 不法行為による損害と弁護士費用

S44.02.27 最高(一小)判 事件番号 昭41(オ)280

  • 判決
    • このような事実関係の下においては,上告人は,右競売申立にあたり,前記各根抵当権の不存在について,かりに故意がなかつたとしても,少なくとも社会通念上過失があつたとした原審の判断は正当であるというべきである。

      しかして,右競売裁判所は,右競売申立に基づき同日競売開始決定をし,さらに競売期日の指定,公告等の手続を進めていたこと原判決の確定するところであるから,

      被上告人がこの競売手続を阻止する手段を講じなければ,被上告人の第一,第二物件の所有権の行使に一層重大な障害を惹起すること明らかであり,被上告人が右競売手続上の異議の申立等によりその手続の進行を阻止するにとどまらず,

      かかる根抵当権の実行を窮極的に阻止するため,根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める本訴提起に及んだことも,けだしやむをえない権利擁護手段というべきである。

      思うに,わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく,訴訟追行を本人が行なうか,弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず,弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが,

      現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上,一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。

      従つて,相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため,

      自己の権利擁護上,訴を提起することを余儀なくされた場合においては,一般人は弁護士に委任するにあらざれば,十分な訴訟活動をなし得ないのである。

      そして現在においては,このようなことが通常と認め
      られるからには,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,

      その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。

      ところで,本件の場合,被上告人が弁護士Fに本件訴訟の追行を委任し,その着手金(手数料)として支払つた一三万円が本件訴訟に必要な相当額の出捐であつたとの原審の判断は,

      その拳示する証拠関係および本件記録上明らかな訴訟経過に照らし是認できるから,結局,右出捐は上告人の違法な競売申立の結果被上告人に与えた通常生ずべき損害であるといわなければならない。

      したがつて,これと同趣旨の原審の判断は正当である。さらに,上告人の過失相殺の主張を排斥した原審の事実認定も正当として首肯することができる。結局,原判決には何等所論の違法がなく,論旨はすべて採用することができない。

  •  自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたるとされた事例

S44.01.31 最高(二小)判 事件番号 昭43(オ)801

  • 判決
    • 右によると,Dは,本件事故当時右E商会の運送部門を担当し,同商会の経営者である上告人に対し従属的関係にあるというべきで,

      したがつて,上告人は,Dの運転する本件自動車の運行について支配力を及ぼし,かつ,その運行によつて利益を享受しており,自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するというべく,これと同旨の原判決の結論は,正当である。

  • 事故により死亡した者の得べかりし利益を算定するにあたりその控除すべき生活費を全稼働期間を通じて収入の五割を越えないものとした事例

S43.12.17 最高(三小)判 事件番号 昭43(オ)656

  • 判決
    • 本件の被害者Dの学歴等原審の認定した諸般の事情に徴し,かつ被害者の得べかりし利益を算定するにあたり控除すべき被害者の生活費とは,

      被害者自身が将来収入を得るに必要な再生産の費用を意味するものであつて,家族のそれを含むものではないことに鑑みれば,

      被害者Dの得べかりし利益を算定するにあたり控除すべき同人の生活費が,その全稼働期間を通じ,収入の五割を越えないとする原審の判断は不当とはいえない

  • 交通事故により会社代表者を負傷させた者に対する会社の損害賠償請求が認められた事例

S43.11.15 最高(二小)判 事件番号 昭40(オ)679

  • 判決
    • 原判決の確定するところによれば,Dは,もと個人でE薬局という商号のもとに薬種業を営んでいたのを,いつたん合資会社組織に改めた後これを解散し,

      その後ふたたび個人でBという商号のもとに営業を続けたが,納税上個人企業による経営は不利であるということから,昭和三三年一〇月一日有限会社形態の被上告会社を設立し,以後これを経営したものであるが,

      社員はDとその妻Fの両名だけで,Dが唯一の取締役であると同時に,法律上当然に被上告会社を代表する取締役であつて,Fは名目上の社員であるにとどまり,取締役ではなく,被上告会社にはD以外に薬剤師はおらず,

      被上告会社は,いわば形式上有限会社という法形態をとつたにとどまる,実質上D個人の営業であつて,Dを離れて被上告会社の存続は考えることができず,被上告会社にとつて,同人は余人をもつて代えることのできない不可欠の存在である,というのである。

      すなわち,これを約言すれば,被上告会社は法人とは名ばかりの,俗にいう個人会社であり,その実権は従前同様D個人に集中して,同人には被上告会社の機関としての代替性がなく,経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであつて,

      かかる原審認定の事実関係のもとにおいては,原審が,上告人のDに対する加害行為と同人の受傷による被上告会社の利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め,形式上間接の被害者たる被上告会社の本訴請求を認容しうべきものとした判断は,正当である

  •  自動車がエンジンの故障のためロープで牽引されて走行している場合と自動車損害賠償保障法第二条第二項にいう「運行」

S43.10.08 最高(三小)判 事件番号 昭42(オ)689

  • 判決
    • 従つて本件の如くエンジンの故障によりロープで他の自動車に牽引されて走行している自動車も,当該自動車のハンドル操作により,或いはフットブレーキまたはハンドブレーキ操作により,その操縦の自由を有するときにこれらの装置を操作しながら走行している場合には,右故障自動車自体を当該装置の用い方に従い用いた場合にあたり,右自動車の走行は,右法条にいう運行にあたると解すべきである

  • 一 逸失利益の算定上控除すべき生活費の判断に理由齟齬の違法があるとされた事例
  • 二 被害者の遺族が支出した葬式費用は加害者側の賠償すべき損害となるか
  • 三 被害者の遺族が受領した香典を損害額の算定にあたり控除することの要否

S43.10.03 最高(一小)判 事件番号 昭40(オ)330

  • 判決
    • 「原審は,本件事故によつて死亡したDの得べかりし利益の算定根拠として,同女が,事故当時一か月につき,E株式会社F工場に勤務して金三〇〇〇円,和裁等の内職により金三〇〇〇円の収入をあげ,金五一二五円の生活費を要していたこと,

      および,一〇年経過後は工場からの収入がなくなることを確定し,事故後一〇年間は右収入から生活費を控除した一か年金一万〇五〇〇円,その後の一〇年間はその半額にあたる一か年金五二五〇円の純収益を得べかりしものと判断している。

      しかし,右確定された事実によると,事故から一〇年を経過した後においては,収入は内職による一か月金三〇〇〇円のみとなるから,生活費がそれ以下に減少しないかぎり,純収益として算定しうべきものの残らないことは,計数上明白なところであり,

      それにもかかわらず,原審が,生活費の減少すべき点について何ら判示することなく,収入が半減してもなお当然にそれまでの純収益の半額にあたる利益を得べかりしものと判断しているのは,明らかに理由齟齬の違法を犯したものといわなければならない

      「被上告人BがDの葬式費用として原判示の支出をしたことは,原判決挙示の証拠に照らし肯認することができるし,右費用は,その額その他原審認定の諸般の事情に徴し,社会通念上不相当な支出とは解されない。

      そして,遺族の負担した葬式費用は,それが特に不相当なものでないかぎり,人の死亡事故によつて生じた必要的出費として,加害者側の賠償すべき損害と解するのが相当であり,人が早晩死亡すべきことをもつて,右賠償を免れる理由とすることはできない。

      また,会葬者等から贈られる香典は,損害を補填すべき性質を有するものではないから,これを賠償額から控除すべき理由はない

  • 交差点において追抜態勢にある自動車運転手の並進車に対する注意義務の範囲

S43.09.24 最高(三小)判 事件番号 昭42(オ)1438

  • 判決
    • 上告人は昭和四〇年九月二〇日午後五時五〇分頃第二種原動機付二輪車(上告車)を運転して名古屋市a区b通を時速三〇粁で南進し、同通c丁目d番地先にさしかかつたところ、

      東の方から東西に通ずる道路を西進してb通を出てきた一台の乗用車が上告人の前方約一五米地点で一時停車したので、それをかわすため、別段の合図もせず、ハンドルを右に切り、抛物線状にb通の中央近くへ出て前進しようとしたが、

      その際上告人の背後方向から南に向つて時速約四五粁で進行してきた被上告人B1運転の軽四輪貨物自動車(被上告車)の左側後部に自己の車の前部フオーク右側を接触させて転倒した旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。

      そして、右接触の前において、被上告車が上告車と並行する同一方向の進路を先行する乗用車に続いて直進していたことは原判文自体からうかがえるところであるから、

      上告人は前記一台の乗用車がb通に進入しようとして一時停車しているのに注意を奪われ、右方および後方の安全を確認することなく、別段の合図もせず、ハンドルを右に切つたため、

      折しも後方から先行する乗用車に続いて上告車の右側を走行していわゆる追抜(原判文が追越といつているのは誤記と認める)態勢にはいつていた被上告車に上告車の車体を接触させたものといわなければならない。

      ところで、このように既に先行車に続いて追抜態勢にある車は、特別の事情のないかぎり、並進する車が交通法規に違反して進路を変えて突然自車の進路に近寄つてくることまでも予想して、

      それによつて生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。

      したがつて、本件事故はいつに上告人の過失によつて生じたもので、被上告人B1の過失によつて生じたものではないといわなければならない。

  • 死者の得べかりし利益の喪失による損害額の認定にあたり将来の昇給の見込をしんしゃくすることが許されるとされた事例

S43.08.27 最高(三小)判 事件番号 昭41(オ)781

  • 判決
    • 「不法行為によつて死亡した者の得べかりし利益を喪失したことによる損害の額を認定するにあたつては,裁判所は,あらゆる証拠資料を総合し,経験則を活用して,でき得るかぎり蓋然性のある額を算出するよう努めるべきであり,

      蓋然性に疑いがある場合には被害者側にとつて控え目な算定方法を採用すべきであるが,ことがらの性質上将来取得すべき収益の額を完全な正確さをもつて定めることは不可能であり,

      そうかといつて,そのために損害の証明が不可能なものとして軽々に損害賠償請求を排斥し去るべきではないのであるから,

      客観的に相当程度の蓋然性をもつて予測される収益の額を算出することができる場合には,その限度で損害の発生を認めなければならないものというべきである。

      そして,死亡当時安定した収入を得ていた被害者において,生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが,証拠に基づいて相当の確かさをもつて推定できる場合には,右昇給等の回数,金額等を予測し得る範囲で控え目に見積つて,これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することも許されるものと解すべきである

      「基本給については,右会社に勤務する右Dと同程度の学歴,能力を有する者について昭和二九年度から同三二年度まで四年間の毎年の現実の昇給率を認定し,

      Dが死亡の前月に受けた基本給の額三〇八〇円を基準として,右各年度において右と同一の率をもつて逐次昇給し得たものとして同人のその間の得べかりし基本給の額を算定し,

      昭和三三年度以後同人が満四四才に達する同五〇年度までは右四年間の昇給率の平均値である七・七七五パーセントの割合をもつて毎年昇給を続けるものとしてその間の基本給の額を算出し,

      さらにそれ以後満五五才に達するまではこれを下廻る毎年五パーセントの昇給率をもつて昇給するものとしているのであつて,

      Dが生存していた場合にこのようにして昇給することは,確実であるとはいえないにしても,相当程度の蓋然性があるものと認められないことはなく,

      このような平均値的な昇給率によつて予測された昇給をしんしやくして将来の収入を定めることは,なお控え目な算定方法にとどまるものとして是認することができるものという
      べきである。





a:2104 t:1 y:0