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  • 一 付添看護を必要とする被害者が近親者の無償の付添看護を受けた場合と付添看護料相当額の賠償請求の許否
  • 二 交通事故による被害者が加害者に対して損害賠償請求権を有する場合と生活保護法による保護受給資格

S46.06.29 最高(三小)判 事件番号 昭42(オ)1245

  • 判決
    • 「しかしながら,被害者が受傷により付添看護を必要とし,親子,配偶者などの近親者の付添看護を受けた場合には,現実に付添看護料の支払いをせずまたはその支払請求を受けていなくても,

      被害者は近親者の付添看護料相当額の損害を蒙つたものとして,加害者に対しその賠償請求をすることができるものと解するを相当とする。

      けだし,親子,配偶者などの近親者に身体の故障があるときに近親者がその身のまわりの世話をすることは肉親の情誼に出ることが多いことはもとよりであるが,

      それらの者の提供した労働はこれを金銭的に評価しえないものではなく,ただ,実際には両者の身分関係上その出捐を免れていることが多いだけで,このような場合には肉親たるの身分関係に基因する恩恵の効果を加害者にまで及ぼすべきものではなく,

      被害者は,近親者の付添看護料相当額の損害を蒙つたものとして,加害者に対してその賠償を請求することができるものと解すべきだからである。

      「同法六三条は,同法四条一項にいう要保護者に利用しうる資産等の資力があるにかかわらず,保護の必要が急迫しているため,その資力を現実に活用することができない等の理由で同条三項により保護を受けた保護受給者がその資力を現実に活用することができる状態になつた場合の費用返還義務を定めたものであるから,

      交通事故による被害者は,加害者に対して損害賠償請求権を有するとしても,加害者との間において損害賠償の責任や範囲等について争いがあり,賠償を直ちに受けることができない場合には,他に現実に利用しうる資力かないかぎり,

      傷病の治療等の保護の必要があるときは,同法四条三項により,利用し得る資産はあるが急迫した事由がある場合に該当するとして,例外的に保護を受けることができるのであり,必ずしも本来的な保護受給資格を有するものではない。

      それゆえ,このような保護受給者は,のちに損害賠償の責任範囲等について争いがやみ賠償を受けることができるに至つたときは,その資力を現実に活用することができる状態になつたのであるから,同法六三条により費用返還義務が課せられるべきものと解するを相当とする。

  • 砂利採取販売業者の被用者が自己所有のダンプカーにより砂利運搬の作業に従事していたがたまたま私用のため右ダンプカーを運転し他人の生命を害した場合に使用者に自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任が認められた事例

S46.04.06 最高(三小)判 事件番号 昭45(オ)759

  • 判決
    • そして,本件事故は,Dが,たまたま,昭和四二年六月四日右飯場に来訪していた実妹Gを実家へ送り届けるためダンプカーに乗せ,自らこれを運転して行く途中,栃木市a町b番地附近の道路上において惹起したものであるが,

      前述のような上告人の事業の種類,上告人とDとの雇傭関係,Dのダンプカー運転による稼働状況,ダンプカーの保管状況等によれば,

      右事故当時の運行は,客観的外形的には,上告人のためにする運行と解するのが相当であつて,Dの砂利運搬の作業が採取場構内に制限されていたことは,単なる内部的事情に過ぎず,右の判断に影響を及ぼすものではない。右と同趣旨の原審の判断は正当である。

  • 砂利採取販売業者の被用者が自己所有のダンプカーにより砂利運搬の作業に従事していたがたまたま私用のため右ダンプカーを運転し他人の生命を害した場合に使用者に自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任が認められた事例

S46.04.06 最高(三小)判 事件番号 昭45(オ)759

  • 判決
    • そして,本件事故は,Dが,たまたま,昭和四二年六月四日右飯場に来訪していた実妹Gを実家へ送り届けるためダンプカーに乗せ,自らこれを運転して行く途中,栃木市a町b番地附近の道路上において惹起したものであるが,

      前述のような上告人の事業の種類,上告人とDとの雇傭関係,Dのダンプカー運転による稼働状況,ダンプカーの保管状況等によれば,右事故当時の運行は,客観的外形的には,上告人のためにする運行と解するのが相当であつて,

      Dの砂利運搬の作業が採取場構内に制限されていたことは,単なる内部的事情に過ぎず,右の判断に影響を及ぼすものではない。右と同趣旨の原審の判断は正当である。

  • 所有権留保約款付月賦販売による自動車の売主と自動車損害賠償保障法三条の運行供用者

S46.01.26 最高(三小)判 事件番号 昭45(オ)885

  • 判決
    • 所有権留保の特約を付して、自動車を代金月賦払いにより売り渡す者は、特段の事情のないかぎり販売代金債権の確保のためにだけ所有権を留保するにすぎないものと解すべきであり、

      該自動車を買主に引き渡し、その使用に委ねたものである以上、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者ではなく、

      したがつて、自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にはあたらないというべきである。
       

  • 自動車の借主の運行による事故につき貸主に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が認められた事例

S46.01.26 最高(三小)判 事件番号 昭45(オ)678

  • 判決
    • 上告人は,本件貨物自動車を日常の業務に使用していたところ,退職直後の被用者Dの求めに応じ,同人にその身廻品を名古屋市の実家に運搬して上告人の寮を明け渡させる目的をもつて,

      無償で,かつ,二日後に返還を受ける約束のもとに,運行に関する指示をし,所要の量の約半分のガソリンを与え,上告人の負担で整備を完了したうえ,本件自動車をDに貸与したものであり,

      同人は,右目的に本件自動車を使用したのち,上告人にこれを返還するため名古屋市より大阪市方面へ運行中本件事故を惹起したものであるなど,原判示の事実関係のもとにおいては,

      本件事故当時,上告人は,本件自動車に対する運行支配および運行利益を失わないものであつて,自動車損害賠償保障法三条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者としての責任を免れないとした原判決の判断は,正当であり,

  • 自動車の所有者と身分関係のある者が私用のため運転中起こした事故につき所有者に運行供用者責任が認められた事例

S46.01.26 最高(三小)判 事件番号 昭45(オ)836

  • 判決
    • 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定したところによれば,上告人は,本件貨物自動車を所有し,息子のDおよび被用者にこれを運転させて砂利・砂の販売業を営んでいたというのであるから,右自動車を自己のために運行の用に供していたものであることが明らかである。

      そして,Eは,上告人と姻族関係にあつて近所に居住し,従来も数回上告人および家人から右自動車を借り受けて運転したことがあること,右自動車の鍵は上告人の住居から自由に持ち出すことができ,車庫から自動車を進出させることも容易な状況にあつたこと,

      本件事故の前日の午後,Eは,妻の実家に行くなどのため上告人の家人に右自動車を借りる旨を告げ,右鍵を持ち出して右自動車を運転して進行し,途中でDを同乗させ,以後同人の運転で八女市および久留米市に赴き,その帰途Eの運転中に本件事故を起こしたものであること,

      したがつて,Eが右自動車を借り受けたのも一時使用のためであり,ただちに返還を予定していたものであることなど原判決認定の事実関係のもとにおいては,

      本件事故当時,Eが上告人の承諾を得ないで私用のため本件自動車を運転していたからといつて,上告人が右自動車の運行について支配を失つていたものと解される事情は,認めるに足りないものというべきである。

      したがつて,上告人は,自己のため自動車を運行の用に供する者として本件事故による損害を賠償する責任を負うべきものであるとした原判決の判断は,正当であつて,論旨は採用することができない

  • 道路交通法七二条一項後段所定の報告義務と物件損壊の程度との関係

S45.12.08 最高(二小)判 事件番号 昭45(う)1660

  • 判決
    • 要旨>しかしながら、右条項の文言には「損壊した物及びその損壊の程度並びに当該交通事故について講じた措置</要旨>を報告しなければならない」と規定されており、

      報告の内容には単に「物件損壊の程度」のみならず「当該交通事故について講じた措置」も包含されているのであり、且つ報告の対象となる「損壊の程度」については何らの限定がなく、極めて軽微な場合は報告を要しないとされているわけではないのであるから、

      所論の如く事故に因つて生じた損壊の程度の如何によつて右報告義務を免れしめるものでないことは規定の文言自体からして極めて明白なところであるといわなければならない。

      そのうえ、この報告制度が認められた趣旨は、さきに説示したとおり、警察官をして交通事故の程度等を知らしめて即時適切な措置を執らしめるためであり、

      また法第七十二条第二項及び第三項において警察官が運転者らより交通事故の程度等につき報告を受けた場合その措置の当否を検討し道路における危険を防止するため必要があると認めるときは必要な指示を為し得ることを認めていること等に鑑みると、

      法はいやしくも交通事故が発生した場合にはこれに因る物件の損壊の状況、道路交通の危険(その虞を含む)の有無、その状況等は最終的には警察官に確認せしめ、

      その判断によつて個々の事態に即応して適切な措置をとることを期待していることが明らかであるから、交通事故が発生した場合にはその軽重を問わず総て報告することを要するものと解するのが法の趣旨に適合する所以と考える。

      これを要するに右報告義務は交通取締の責任を負う警察官をして速かに事故発生の事実を知り交通秩序の回復に即時適切な応急処置を執らしめ且つ当該車両等の運転者らの講じた措置が適切であるか否か、さらに講ずべき措置はないか等を判断させて万全の措置を講じるのに資するものであるから、

      物件損壊の程度が軽微であつて交通秩序の回復にさして支障を来たさないと一応考えられるような場合に於ても、なお警察官が前記の立場から種々施すべき措置がある場合も無しとしないから、飽くまで報告は必要であり、事故を起した車両等の運転者らに前記報告義務を免れさせるものではないと解するのが相当である。

      以上の次第であるから、本件の場合、被告人に右同条規定の報告義務違背の刑責ありとした原判決には同条の解釈適用を誤つた違法はなく、論旨は理由がない。

  • 交差点で右折する自動車運転者に信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき注意義務がないとされた事例

S45.10.29 最高(一小)判 事件番号 昭42(オ)980

  • 判決
    • そこで、案ずるに、本件交差点のように信号機の表示する信号により交通整理が行われている場合、同所を通過する者は、互にその信号に従わなければならないのであるから、

      交差点で右折する車両の運転者は、通常、他の車両の運転者も信号に従つて行動するであろうことを信頼し、それを前提として注意義務を尽せば足り、

      特別な事情のないかぎり、信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想して左右後方の安全を確認すべき注意義務を負わないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四三年(あ)第四九〇号同四三年一二月二四日第三小法廷判決、刑事裁判集一六九号九〇五頁参照)。

      この見地に立つてみると、前記事実関係のもとにおいては、被上告人Bには本件事故につき過失はなく、かえつて、本件事故はもつぱら上告人の過失に基因するものであることが明らかである

  • 一 国道への落石の事故につき道路の管理にかしがあると認められた事例
  • 二 国家賠償法二条一項に基づく損害賠償責任と過失の要否

S45.08.20 最高(一小)判 事件番号 昭和42(オ)921

  • 判決
    • 国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,これに基づく国および公共団体の賠償責任については,その過失の存在を必要としないと解するを相当とする。

      ところで,原審の確定するところによれば,本件道路(原判決の説示する安和より海岸線に沿い長佐古トンネルに至る約二〇〇〇メートルの区間)を含む国道五六号線は,一級国道として高知市方面と中村市方面とを結ぶ陸上交通の上で極めて重要な道路であるところ,

      本件道路には従来山側から屡々落石があり,さらに崩土さえも何回かあつたのであるから,いつなんどき落石や崩土が起こるかも知れず,本件道路を通行する人および車はたえずその危険におびやかされていたにもかかわらず,

      道路管理者においては,「落石注意」等の標識を立て,あるいは竹竿の先に赤の布切をつけて立て,これによつて通行車に対し注意を促す等の処置を講じたにすぎず,

      本件道路の右のような危険性に対して防護柵または防護覆を設置し,あるいは山側に金網を張るとか,常時山地斜面部分を調査して,落下しそうな岩石があるときは,これを除去し,崩土の起こるおそれのあるときは,事前に通行止めをする等の措置をとつたことはない,というのである。

      そして,右の原審の認定は,挙示の証拠関係に照らして,是認することができる。

      かかる事実関係のもとにおいては,本件道路は,その通行の安全性の確保において欠け,その管理に瑕疵があつたものというべきである旨,本件道路における落石,崩土の発生する原因は道路の山側の地層に原因があつたので,

      本件における道路管理の瑕疵の有無は,本件事故発生地点だけに局限せず,前記二〇〇〇メートルの本件道路全般についての危険状況および管理状況等を考慮にいれて決するのが相当である旨,

      そして,本件道路における防護柵を設置するとした場合,その費用の額が相当の多額にのぼり,上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが,

      それにより直ちに道路の管理の瑕疵によつて生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできないのであり,その他,本件事故が不可抗力ないし回避可能性のない場合であることを認めることができない旨の原審の判断は,いずれも正当として是認することができる。

      してみれば,その余の点について判断するまでもなく,本件事故は道路管理に瑕疵があつたため生じたものであり,上告人国は国家賠償法二条一項により,上告人県は管理費用負担者として同法三条一項により損害賠償の責に任ずべきことは明らかである。

  • 一 得べかりし利益の喪失による損害額の算定と租税控除の要否
  • 二 一部請求の趣旨が明示されていない場合の訴提起による時効中断の範囲

S45.07.24 最高(二小)判 事件番号 昭44(オ)882

  • 判決
    • 「被上告人が本件事故による負傷のためたばこ小売業を廃業するのやむなきに至り,右営業上得べかりし利益を喪失したことによつて被つた損害額を算定するにあたつて,

      営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではないとした原審の判断は正当であり,税法上損害賠償金が非課税所得とされているからといつて,損害額の算定にあたり租税額を控除すべきものと解するのは相当でない。

      「一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨を明らかにして訴を提起した場合,訴提起による消滅時効中断の効力は,その一部についてのみ生じ,残部には及ばないが,

      右趣旨が明示されていないときは,請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解すべく,この場合には,訴の提起により,右債権の同一性の範囲内において,その全部につき時効中断の効力を生ずるものと解するのが相当である。

      これを本件訴状の記載について見るに,被上告人の本訴損害賠償請求をもつて,本件事故によつて被つた損害のうちの一部についてのみ判決を求める趣旨であることを明示したものとはなしがたいから,

      所論の治療費金五万〇一九八円の支出額相当分は,当初の請求にかかる損害額算定根拠とされた治療費中には包含されておらず,昭和四一年一〇月五日の第一審口頭弁論期日においてされた請求の拡張によつてはじめて具体的に損害額算定の根拠とされたものであるとはいえ,本訴提起による時効中断の効力は,右損害部分をも含めて生じているものというべきである。

  • 一家の責任者として家業を総括していたものと目すべき父と,同居家族の一員として右家業に従事しその所有車を家業のためにも使用していた息子の双方について,運行供用者責任が認められた事例

S45.07.16 最高(一小)判 事件番号 昭44(オ)79

  • 判決
    • 原審(第一審判決引用部分を含む。以下同じ。)は,上告人A1は上告人A2,同A3兄妹の父であるが,本件事故当時,上告人らはA1のもとに同居し,家族が共同して雑貨店ならびにガソリンスタンドの営業に従事し,主として右営業による収入で生活していたもので,上告人A1は,右営業を含む社会生活全般につき,一家の責任者として行動していたこと,

      本件加害自動車の所有者は上告人A2であつたが,同上告人も家族の一員として前記家業に従事し,右自動車はその営業のためにも使用されていたこと,上告人A3は普通自動車の運転免許を持ち,本件事故以前に数回にわたり本件自動車を運転したことがあつたが,

      上告人A1・同A2はこれを止めさせることなく放任していたこと,を確定している趣旨と解することができ,右事実の認定は,証拠関係に照らし,首肯するに足りる。

      右の事実関係によるときは,右自動車の所有者たる上告人A2はもとより,一家の責任者として営業を総括していたものと目すべき上告人A1も,右自動車の運行について指示・制禦をなしうべき地位にあり,かつ,その運行による利益を享受していたものということができるから,

      ともに,右自動車を自己のために運行の用に供していたものというべく,たまたま本件事故は上告人A3が近所の怪我人を病院に運ぶため独断で右自動車を運転中に引き起こしたものであることは原審の認定するところであるけれども,

      そのことは,本件事故発生時の運行が,客観的には,上告人A1および同A2の自動車に対する運行支配権に基づき,右上告人両名のためにされたものと認める妨げとなるものではないというべきである。

      したがつて,右上告人両名が自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたるとして,本件事故による損害につき,同条による上告人両名の賠償責任を肯定した原審の判断は正当であつて,原判決に所論の違法は認められない

  • 不法行為による弁護士費用の損害賠償請求権の消滅時効が当該報酬の支払契約をした時から進行するものとされた事例

S45.06.19 最高(二小)判 事件番号 昭44(オ)812

  • 判決
    • そして,上告人の主張によれば,上告人は,昭和三六年一〇月頃弁護士に本訴の提起を委任した際,成功時に成功額の一割五分の割合による報酬金を支払う旨約したというのであるが,

      かように,上告人が,弁護士に本訴の提起を委任し,前述のような成功報酬に関する契約を締結した場合には,右契約の時をもつて,上告人が,民法七二四条にいわゆる損害を知つた時に当たるものと解するについて,妨げはないというべきである

  • 少年の被疑事件につき捜査等に日時を要したため家庭裁判所の審判を受ける機会が失われたときと捜査手続の違法

S45.05.29 最高(二小)判 事件番号 昭44(あ)2037

  • 判決
    • 職権により調査すると、原判決ならびにその維持する第一審判決中業務上過失傷害の公訴を棄却した部分には、以下に述べる法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認める。

      すなわち、起訴状によると、本件は、昭和二二年一一月七日生れの被告人が、その年令一九歳二カ月であつた昭和四二年一月二八日、福岡県宗像郡a町の道路において普通貨物自動車を運転中、業務上必要な注意義務を怠つて、自己の車両をガードレールに衝突させ、さらに路外の田圃に転落させ、よつて同乗者二名にいずれも全治まで約一週間を要する傷害を負わせたという事案であるところ、

      原判決の判示するところによれば、昭和四二年一月二八日、被告人からの急報を受けた宗像警察署の交通事故係巡査Aは、本件事故現場において実況見分をしてその調書を作成し、

      同日被害者二名の各診断書を、また、同月三〇日にガードレールの損壊についての被害届と修理費用の見積書を各関係人から提出させ、

      さらに同年二月四日同警察署において被告人および被害者の一人であるBを取り調べてそれぞれ供述調書を作成し、

      同年三月二二日被告人の事故車の修理費用等の見積書が提出されたので、その約一〇日後に再度本件事故現場を見分し、

      被告人や被害者らの供述の信憑性を確認し、その頃までに本件事故に関する必要書類の作成と収集を完了したが、

      同巡査は、本件ほか七件の交通事故未済事件を抱えたまま、同年四月一日付で交通事故係から交通指導係となり、さらに同年九月一日付で外勤係となつたところ、

      同年八月末までに右未済事件のうち四件を処理しながら、本件については被告人が成人となる時期が切迫している少年であることを知りつつ日時を経過し、同年一〇月一六日に至つて本件の捜査報告書一通を作成したうえ、

      捜査記録を上司である事故係主任に引き継いだけれども、同署交通課長、同署長が決裁する頃にはすでに同年一一月六日を過ぎて被告人は成人となつており、その後、昭和四三年五月一七日、徳山区検察庁検察官により公訴が提起されたというのである。

      ところで、少年の被疑事件を家庭裁判所に送致するためには、司法警察員または検察官において、犯罪の嫌疑があると認めうる程度に証拠を収集し、捜査を遂げる必要があり、このことは、少年法四一条、四二条の明定するところである。

      したがつて、捜査機構、捜査官の捜査能力、事件の輻輳の程度、被疑事件の難易等の事情に左右されることではあるが、その捜査にある程度の日時を要することはいうまでもなく、捜査に長期の日時を要したため、家庭裁判所に送致して審判を受ける機会が失われたとしても、ただちに、それのみをもつて少年法の趣旨に反し、捜査手続を違法であると速断することはできない。

      もつとも、捜査官において、適時に捜査が完了しないときは家庭裁判所の審判の機会が失われることを知りながらことさら捜査を遅らせ、あるいは、特段の事情もなくいたずらに事件の処理を放置しそのため手続を設けた制度の趣旨が失われる程度に著しく捜査の遅延を見る等、極めて重大な職務違反が認められる場合においては、捜査官の措置は、制度を設けた趣旨に反するものとして、違法となることがあると解すべきである。

      そして、以上の理は、当小法廷がすでに昭和四四年(あ)第八五八号同年一二月五日判決において判示したところである。

      この見地から本件を考察すると、原判決の判示する前記事実関係のもとにおいては、捜査に従事した警察官には、本件の処理につき適切な配慮を欠いた点なしとしないとはいえ、

      いまだ前示のごとき重大な職務違反があるとは認めがたいから、その捜査手続は、これを違法とすることはできない。

      原判決が、これに反して、本件捜査手続を違法とした判断は、法令の解釈適用を誤つたものであり、したがつて、この判断を前提として、公訴提起の手続が無効であるとの理由により公訴棄却を言い渡した第一審判決を維持した判断もまた、誤つているといわなければならない。

      よつて、刑訴法四一一条一号により原判決ならびに第一審判決中業務上過失傷害の公訴を棄却した部分を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により本件を徳山簡易裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  • 自動車運転者および自動車運行供用者に賠償義務がないとされた事例

S45.05.22 最高(二小)判 事件番号 昭43(オ)1209

  • 判決
    • 要旨
      運転者が、中心線のある幅員約一六メートルの道路において時速約四〇キロメートルで運転中、附近にある横断歩道を迂回せず酔余のためその前方約二〇メートルの地点を横断中の被害者を発見し、時速約一〇キロメートルに減速して、被害者に近づいたところ、

      大体道路を横断し終つた被害者が、一、二歩後退したため、自動車の左照灯附近に衝突した等、原判示の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、運転者は民法七〇九条による賠償義務を、また自動車運行供用者は自動車損害賠償保障法三条による賠償義務を負わない。

  • 一 被用者の不法行為に基づく責任と民法七一五条に基づく使用者の責任との関係
  • 二 不法行為による慰籍料請求権と相続

S45.04.21 最高(三小)判 事件番号 昭44(オ)479

  • 判決
    • 「被用者の責任と使用者の責任とは,いわゆる不真正連帯と解すべきであり,不真正連帯債務の場合には債務は別々に存在するから,

      その一人の債務について和解等がされても,現実の弁済がないかぎり,他の債務については影響がないと解するのが相当である(大判昭和一二年六月三〇日,民集一六巻一二八五頁)

      「不法行為による精神的苦痛に基づく損害の賠償を請求する権利,すなわち,慰藉料請求権は,被害者の死亡によつて当然に発生し,これを放棄,免除する等特別の事情の認められないかぎり,被害者の相続人がこれを相続することができると解して,

      被上告人らがその被相続人である亡Eの本件慰藉料請求権を相続したものと認定した原審の判断は,当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号昭和四二年一一月一日大法廷判決(民集二一巻九号二二四九頁)の判旨に照らし,正当として首肯することができる

  • 加害自動車の車体に自社名を表示することを許諾していた運送契約上の注文主につき,運行供用者責任が否定された事例.

S45.02.27 最高(二小)判 事件番号 昭44(オ)1113

  • 判決
    • 右事実関係によるときは,本件事故は,貸物自動車を所有して運送業を営んでいた訴外Dが被上告会社との運送契約に基づき自己の営業のためその被用者である訴外Eをして従事させていた加害自動車の運行中に生じたもので,

      被上告会社はDとの右運送契約上の注文主にすぎず,原判示のような事情から加害車の車体に被上告会社の許諾を得てその社名が表示されていたとはいえ,右自動車の運行自体については,被上告会社はなんら支配力を有していなかつたものというべきであるから,

      右事故につき,被上告会社に自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」としての責任を負わせることはできないとした原審の判断も,正当ということができる

  • 弁護士費用の賠償義務を認めた判断が相当とされた事例

S45.02.26 最高(一小)判 事件番号 昭44(オ)403

  • 判決
    • 不法行為の被害者が,自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,

      その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり,

      右不法行為と相当因果関係に立つ損害として,その賠償を求めうるものと解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(昭和四一年(オ)第二八〇号,同四四年二月二七日第一小法廷判決,民集二三巻二号四四一頁参照)。

      原審も,これと同趣旨の見解に立ち,後見人選任の申立を含め,本件事故により被つた損害の賠償を訴求するための手続の遂行を弁護士に委任し,その報酬として支払いもしくは支払を約した費用のうち,

      被上告人両名につきそれぞれ金七二万五〇〇〇円づつを,本件事故により通常生ずべき損害として,上告会社をして賠償の責に任ぜしめるのを相当としたものと解せられ,その判断は正当である。

      そして,右判断にあたつては,その斟酌した事情を遂一具体的に説示しなければならないものではない





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