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  •  昭和四〇年一〇月に改訂され昭和四七年まで存在した自動車保険普通保険約款に基づく自動車対人賠償責任保険契約における保険金支払債務の履行期の到来

S54.05.31 最高(一小)判 事件番号 昭52(オ)903

  • 判決
    • 一般に,損害保険契約は,保険事故の発生により被保険者が被る損害の填補を目的とし,その場合における填補額は,被保険者が現実に被つた具体的損害の額に限られるものであるところ,

      本件保険契約のような責任保険契約においては,被保険者が事故により第三者に対して損害賠償責任を負うことによつて被る損害を填補することを目的とし,

      したがつて,被保険者が現実に第三者に対し損害賠償責任を負担するに至つたときでも,その賠償額が具体的に確定されない限り,契約上填補すべき損害額も確定せず,保険契約者としては現実に支払うべき保険金の額を確認することができない関係にあるから,

      それより前の段階において保険金支払債務の履行期が到来したとし,その後における履行遅滞の責任を保険契約者に負わしめることは妥当とはいえない。

      それ故,保険契約上右と異別の約定が存するときは格別,そうでない限り,損害賠償額が確定されるまでは,保険契約者の保険金支払債務の履行期は到来しないものと解するのが相当である。

      そして,本件保険契約における前記(二)の諸条項は,右の趣旨を前提とするものと解されこそすれ,これと異なる特段の定めをした趣旨のものとは認められない。
       

  • 一 死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定と将来得べかりし収入額から養育費を控除することの可否
  • 二 将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法とライプニツツ式計算法

S53.10.20 最高(二小)判 事件番号 昭50(オ)656

  • 判決
    • 「交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても,

      右養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく,

      したがつて,幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である

      「原審が亡Dの将来得べかりし利益の喪失による損害賠償につき,本件事故発生時において一時にその支払を受けるものとし,年五分の中間利息を控除するために採用した所論ライプニツツ式計算法は,

      交通事故の被害者の将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法として不合理なものとはいえず,

  • 自動車損害賠償保障法二条二項にいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」の意義

S52.11.24 最高(一小)判 事件番号 昭51(オ)953

  • 判決
    • 自動車損害賠償保障法二条二項にいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」には、自動車をエンジンその他の走行装置により位置の移動を伴う走行状態におく場合だけでなく、

      本件のように、特殊自動車であるクレーン車を走行停止の状態におき、操縦者において、固有の装置であるクレーンをその目的に従つて操作する場合をも含むものと解するのが相当である。

      したがつて、原審の適法に確定した事実関係のもとで、右と同旨の判断のもとに、本件事故は本件クレーン車の運行中に生じたものであるとし、亡Dの死亡との間の相当因果関係をも肯認して、上告人に対し同法三条所定の責任を認めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない

  • 労働者災害補償保険法又は厚生年金保険法に基づく保険給付の確定と受給権者の使用者に対する損害賠償債権額から将来の給付額を控除することの要否

S52.10.25 最高(三小)判 事件番号 昭50(オ)621

  • 判決
    • 政府が保険給付をしたことによつて,受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは,右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上,政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ,

      いまだ現実の給付がない以上,たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても,受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり,このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが,相当である

  • 会社の従業員が自家用車を用いて出張中に惹起した交通事故につき会社の使用者責任が否定された事例

S52.09.22 最高(一小)判 事件番号 昭51(オ)886
 

  • 判決
    • 右事実関係のもとで,被上告人がDに対し同人の本件出張につき自家用車の利用を許容していたことを認めるべき事情のない本件においては,

      同人らが米子市に向うために自家用車を運転したことをもつて,行為の外形から客観的にみても,被上告人の業務の執行にあたるということはできず,

      したがつて,右出張からの帰途に惹起された本件事故当時における同人の運転行為もまた被上告人の業務の執行にあたらない旨の原審の判断は,正当というべきである 

  • 従業員が雇傭主所有の自動車を無断運転中に起こした交通事故のため同乗者が傷害を受けた場合につき所有者に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が認められた事例

S52.09.22 最高(一小)判 事件番号 昭52(オ)486

  • 判決
    • 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては,本件事故当時における訴外Dの本件自動車の運行を客観的に観察するとき,上告人は右訴外人の自動車運行につき運行支配と運行利益を有していたものと認められないわけではない。

      もつとも,原判決は上告人に対する運行利益の帰属につき明示するところかないが,その判示からこれを肯定していることを窺うに足りる。また,被上告人が上告人に対する関係では他人性を有していた旨の判断もまた正当である 

  • 公正証書に対する再度の請求異議の訴において異議事由の主張がさきの請求異議の訴に対する確定判決の既判力に抵触し許されないとされた事例

S52.07.21 最高(一小)判 事件番号 昭49(オ)349

  • 判決
    • 本件各公正証書の表示する遅延損害金の率は月二分五厘(年三割)であると解するほかはないところ、記録を調査すると、成立に争いのない甲第三号証(前訴控訴審判決正本)、乙第五六号証(同第一審判決正本)によれば、(一)前訴において、被上
      告人は、
      (1)被上告人は連帯保証をしていない、
      (2)被上告人は公正証書作成嘱託の委任をしていない、
      (3)上告人は利息・遅延損害金債権を将来の分も含めて全部放棄した、
      (4)元本は一部を弁済し残りを代物弁済したことにより全部消滅したと

      の四点を異議の事由として、

      元本債権並びに利息債権及び将来の分を含めた遅延損害金債権全部につき、請求異議の訴により本件各公正証書の執行力の排除を求めた、
      (二)これに対し前訴確定判決は、被上告人の異議事由を、右(1)及び(2)については全部排斥し、(3)については昭和三二年八月三一日までの分の限度で認めてその余を排斥し、(4)については第二八一号証書のみにつき四五万七七五〇円の限度で認めてその余を排斥し、結局、被上告人の請求のうち、第二八一号証書については元本債権中五四万二二五〇円と利息・遅延損害金債権中昭和三二年九月一日以降の分及び第二七九号証書については元本債権全部と利息・遅延損害金債権中同日以降の分に関する各請求部分はいずれもこれを棄却した、との事実を認めることができる。これらの事実によれば、本訴において、被上告人が弁済充当につき利息制限法の定めを根拠として昭和三二年九月一日以降の遅延損害金の率を月二分五厘よりも低い率によるべきであると主張して本件各公正証書の執行力の排除を求めることは、前訴の口頭弁論終結前にすでに存在していた事由に基づいて昭和三二年九月一日以降の遅延損害金債権の一部不存在を再び主張し、右部分について本件各公正証書の執行力の排除を求めることにほかならないから、このような被上告人の主張は、前訴確定判決の既判力に抵触し、許されないものと解するのが相当である。
       

  • 厚生年金保険法又は労働者災害補償保険法(昭和四八年法律第八五号による改正前のもの)に基づく保険給付の確定と受給権者の第三者に対する損害賠償債権額から将来の給付額を控除することの要否

S52.05.27 最高(三小)判 事件番号 昭50(オ)431

  • 判決
    • 政府が保険給付又は災害補償をしたことによつて,受給権者の第三者に対する損害賠償請求権が国に移転し,受給権者がこれを失うのは,政府が現実に保
      険金を給付して損害を填補したときに限られ,いまだ現実の給付がない以上,たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても,受給権者は第三者に対
      し損害賠償の請求をするにあたり,このような将来の給付額を損害額から控除することを要しないと解するのが,相当である

  • 兄の許しを得て兄所有の自動車を使用して旅行中たまたま運転を代つた同乗の友人が惹起した事故により受傷した者が兄に対し自動車損害賠償保障法三条にいう他人であることを主張して損害賠償を請求することが許されないとされた事例

S52.05.02 最高(二小)判 事件番号 昭51(オ)1311

  • 判決
    • 原審の適法に確定したところによれば,上告人の兄Dは同人の営業用に普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を所有していたところ,

      上告人は,昭和四六年一二月末,友人のEと正月休みを利用して本件自動車で四国観光旅行をすることを計画し,Dから約一週間本件自動車を使用することの許諾を得たうえ,同月三一日,東京を出発し,Eと適宜運転を交代しながら四国に到着し,

      途中女友達二人を同乗させてからは,上告人,E及び他一名が交代で運転して観光旅行を続けているうち,翌年一月三日午前一一時ころ,愛媛県南宇和郡a町の海中公園を見物するために,

      Eが本件自動車を運転して同町bc番地先路上を進行中,カーブ地点で運転操作を誤り,本件自動車を道路下に転落させ,同乗していた上告人は,右事故のため第一〇胸椎骨折による背髄損傷等の傷害を被つた,というのである。

      右事実関係のもとにおいては,Dの運行支配が間接的,潜在的,抽象的であるのに対し,上告人の運行支配と運行利益の享受がはるかに直接的,顕在的,具体的であるとし,上告人は,Dに対し,自動車損害賠償保障法三条本文にいう「他人」であることを主張することが許されず,

      したがつて同法条に基づく損害賠償責任を問うことができないとした原審の判断は,正当として是認することができる(最高裁昭和四九年(オ)第一〇三五号同五〇年一一月四日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一五〇一頁参照) 

  • 不法行為により休業損害を被つた者が休業補償としての労災保険給付を受けた場合における第三者に対する民法又は自動車損害賠償保障法に基づく休業損害の賠償請求権の帰すう

S52.04.08 最高(二小)判 事件番号 昭51(オ)1145

  • 判決
    • 労災保険給付の受給権者が政府から休業補償としての保険給付を受ければ,保険受給権者の第三者に対する民法又は自動車損害賠償保障法に基づく休業損害の賠償請求権は,右給付金額の限度で政府により代位取得され,その分だけ減縮することになる

  • 交差点を直進する自動車運転者に信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想してこれに対応できる態勢で交差点に進入すべき注意義務がないとされた事例

S52.02.18 最高(二小)判 事件番号 昭51(オ)667

  • 判決
    • 信号機の表示する信号によつて交通整理が行われている交差点を通過する車両は、互いにその信号に従わなければならないのであるから、

      このような交差点を直進する車両の運転者は、たとえそれが深夜であつても、特別の事情のない限り、信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想して、交差点の手前で停止できるように減速し、左右の安全を確認すべき注意義務を負うものでないことは、当裁判所の判例とするところであつて(最高裁判所昭和四四年(オ)第九〇七号同四八年六月二一日第一小法廷判決・裁判集民事一〇九号三八七頁)、

      本件において原審が確定するところによれば、Eは、被告車を運転して本件交差点に進入した時、はじめて訴外車が東西道路を東から右交差点に進入してくるのに気づいたというのであるから、

      特別の事情のない限り、Eには、訴外車を認めるまでの段階で、信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることを予想して、左右の安全を確認し、またこのような信号違反車にも対応できる態勢で本件交差点に進入すべき注意義務はなかつたものといわなければならない。

  • 国税徴収法三九条にいう「受けた利益の限度」の算定と当該受益財産の取得により課される道府県民税額及び市町村民税額控除の要否

S51.10.08 最高(二小)判 事件番号 昭和51(行ツ)37

  • 判決
    • 国税徴収法三九条にいう「受けた利益の限度」の額は,当該受益の時を基準として算定すべきものであるから,その算定上受益財産の価額から控除すべき出捐は,右受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要すると解するのが相当である。

      しかるところ,受益財産の取得により課される道府県民税及び市町村民税は,当該財産の取得による所得のみならず,その年中に生じた他の所得及び損失等との関連において課税標準及び税額が異動するものであつて,

      受益の時においてはその納税義務の存否及び数額を法律上客観的に確定することができないものであるから,

      たとえその後に右税額が確定しこれを納付したとしても,その納付税額は,前記「受けた利益の限度」の額の算定にあたり,これを受益財産の価額から控除すべきものではないといわなければならない 

  •  使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例

S51.07.08 最高(一小)判 事件番号 昭49(オ)1073

  • 判決
    • 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、

      使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、

      損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。





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