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  • 交差点を直進する自動車運転者に信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき注意義務がないとされた事例

S48.06.21 最高(一小)判 事件番号 昭44(オ)907

  • 判決
    • おもうに、本件交差点のように信号機の表示する信号により交通整理が行なわれている場合には、同所を通過する者は、互いにその信号に従わなければならないのであるから、

      交差点を直進する車両の運転者は、特別な事情のないかぎり、信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想して、交差点の手前で停止できるように減速し、左右の安全を確認すべき注意義務は負わないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四二年(オ)第九八〇号同四五年一〇月二九日第一小法廷判決・裁判集民事一〇一号二二五頁参照)。

      したがつて、本件における前記の事実関係のもとにおいては、Dには本件事故につき過失はなく、本件事故はもつぱらFの過失に起因したものであることが明らかである。

      もつとも、Dには道路交通法六八条に違反して走行していた事実が認められるが、その速度違反と本件事故との間には因果関係はなかつたというのであるから、この点は右の結論になんら影響を及ぼすものではない。

  • 他車との衝突後の自動車の暴走と相当因果関係

S48.04.20 最高(二小)判 事件番号 昭47(オ)731

  • 判決
    • よつて案ずるに、原判決認定の本件事故現場道路の幅員、速度制限、見通し状況、横断歩道による追越禁止区間の設置等の道路状況に照らせば、原判決認定の甲車の走行が違法であることはいうをまたないが、通常予想もできない異常なものとまではいうことができない。

      のみならず、乙車は交差点内において道路の左側から合図をすることなく、そのまま後続車の接近を確認することもなく右折をしたと認定しているものと解されるのであるから、

      このような場合後続車の運転者が先行右折車に突然進路をふさがれ、これと衝突・接触の危険を感じて狼狽したため、または現実に衝突・接触して狼狽または怪我をしたためハンドル・ブレーキ等の操作を誤り、あるいはこれらの機構に故障を生ずる等の原因により後続車が暴走し、第三者に衝突することはしばしばみられるところであつて、

      現に原判決も甲車が高速度で進行中乙車との衝突を回避すべく急激にハンドルを切り急制動をしたために運転の自由を失つたことを認定しているのである。

      そして、かりに後続車が制限時速四〇粁で走行していたとしても右のような暴走が起こりえないものではない。ことに本件事故現場附近の道路が南から北への下り勾配になつていることは、右暴走の可能性を高めるものといわなければならない。

      このように、自動車が他車との衝突・接触により前記のような暴走を誘発し、第三者に損害を与えることがしばしばあることは、自動車、原動機付自転車等を運転する者にとつて容易に認識しうるところである。

      してみると、原判決の認定した事実関係のもとにおいては、上告人の自転車に対する甲車の本件衝突は、少なくとも原動機付自転車を運転する者の通常の注意をもつてすれば予見可能の範囲内にあるということができ、

      乙車の前記右折行為と甲車・自転車の衝突との間には、原判決認定の甲車の無謀運転にかかわらず、相当因果関係があるというべきである

  • 過失相殺後の請求認容額等を考慮して定められた弁護士費用と過失相殺

S48.04.05 最高(二小)判 事件番号 昭(オ)835

  • 判決
    • 原審は,本件事案の難易,請求認容額等の諸般の事情を考慮して弁護士費用一七万円を本件事故と相当因果関係のある被上告人の損害と認めたものであることが明らかであつて,

      右一七万円は,既に過失相殺をして減額した請求認容額を考慮して定められたものであるから,さらに過失相殺による差引をすべきではない。

  • 一 身体傷害による財産上および精神上の損害の賠償請求における請求権および訴訟物の個数
  • 二 不法行為による損害賠償の一部請求と過失相殺

S48.04.05 最高(一小)判 事件番号 昭43(オ)943

  • 判決
    • 「本件のような同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは,原因事実および被侵害利益を共通にするものであるから,その賠償の請求権は一個であり,その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも,訴訟物は一個であると解すべきである。

      したがつて,第一審判決は,被上告人Bの一個の請求のうちでその求める全額を認容したものであつて,同被上告人の申し立てない事項について判決をしたものではなく,

      また,原判決も,右請求のうち,第一審判決の審判および上告人の控訴の対象となつた範囲内において,その一部を認容したものというべきである。

      「一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に,過失相殺をするにあたつては,損害の全額から過失割合による減額をし,

      その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し,残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきである。

      このように解することが一部請求をする当事者の通常の意思にもそうものというべきであつて,所論のように,請求額を基礎とし,これから過失割合による減額をした残額のみを認容すべきものと解す
      るのは,相当でない。

  • 道路の交差点における信号機の設置に瑕疵があつたとされた事例

S48.02.16 最高(二小)判 事件番号 昭43(オ)431

  • 判決
    • 右事実に徴すると,本件横断歩道の西端から斜め右方を注視すれば,本件信号機の存在およびその信号の表示を確認することができるのではあるが,

      右のような事実関係,ことに歩行者が,本件横断歩道西端に至り東端に向かつて道路を横断しようとするにあたり,前方を見ても当然には本件信号機が見える位置にはなく,一旦横断を開始すれば一層見えにくくなる状況にあり,

      しかも,前記のように本件交差点が極めて複雑で特異な構造を有していたことなどを考慮すると,

      本件信号機は,その位置および機能をあらかじめ知つていない一般の歩行者にとつては,本件横断歩道の歩行をも兼ねて規制するためのものであることを容易に認識できる適切な位置に設置されてはいなかつたものといわなければならない。

      そうすると,本件信号機は,本件横断歩道との関連においてみるかぎり,その歩行者の歩行をも兼ねて規制する信号機としては,不適当な位置に設置されていたものと認めるのほかはなく,

      かかる意味において,本件横断歩道を歩行する者の通行の安全をも確保するため公の営造物として本来具備すべき安全機能を全うしえない状況にあつたものと解すべきであつて,本件信号機の設置に瑕疵があつたものとした原判決の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。 

  • 一 自動車の借主の運行による事故につき貸主に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が認められた事例
  • 二 数人が自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任を負う場合と民法四三八条の規定の適用の有無

S48.01.30 最高(三小)判 事件番号 昭46(オ)1109

  • 判決
    • 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定したところによれば,訴外Dと亡E,亡F夫婦(以下,E夫婦という。)とは,かねてから親交があつて,相互に自動車の貸し借り,融通をしていた関係にあつたこと,

      本件事故当日,Dはその所有の本件事故車をE夫婦に貸与したが,その目的は休日のドライブという一時的なもので,Dの都合次第でいつでも返還を求めうる状況にあつたこと,

      そして,E夫婦は,その子亡G(当時六才)および被上告人B(旧姓E,当時四才)を同乗させ,被用者の訴外Hに運転させて家族全員でドライブに出かけたところ,Hの過失により本件事故が発生したものであること,以上の事実が認められるというのである。

      右事実関係によれば,Dは,本件事故車をE夫婦に貸し渡していても,なお,その運行に対する支配を失わず,かつ,その運行による利益を享受していたものと認めるべきであつて,

      Dが,本件事故により他人の被つた損害につき,自動車損害賠償保障法三条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者(以下,運行供用者という。)として,その責任を負うべき旨ならびに事故車の同乗者にすぎないGおよびBがDに対する関係において同条にいう他人にあたる旨の原判決の判断は,正当として是認することができる

  • 陸送中の自動車による事故につきその所有者が自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任を負わないとされた事例

S47.10.05 最高(一小)判 事件番号 昭43(オ)596

  • 判決
    • 原審の認定したところによれば,訴外D車体工業株式会社(以下,D車体という。)は,被上告人からの注文による車体の架装を完了した本件自動車を被上告人のE支店まで陸送することを目的として,訴外F陸送株式会社(以下,F陸送という。)との間に運送契約を締結し,

      同会社の被用者Gにおいて右目的のため本件自動車を運転中,本件事故を惹起したものであること,大型貨物自動車および大型乗合自動車の販売を業とする被上告人は,通常,販売店の注文に応じて,訴外H重工業株式会社I工場に注文して製作させた半製品自動車(シャーシー)につき,販売店指定の車体架装業者に車体の架装を請け負わせるのであるが,

      D車体は,被上告人のほか訴外J自動車株式会社等からも架装を請け負つていたもので,経済的実質的に被上告人に従属する関係にはなく,

      本件事故当時においても,架装を完了した本件自動車を被上告人に引き渡すべき義務の履行として,みずから費用を負担し,かねて専属的に運送契約を結んでいたF陸送をして,これを陸送させていたものであること,

      被上告人は,右H重工業株式会社I工場から車体架装工場への自動車の陸送を資本経営上同人系列に属する専属の運送業者である訴外K陸送株式会社に行なわせるのを通常とし,本件自動車をD車体に搬入することも同様にK陸送株式会社に行なわせたのであつて,

      他方,F陸送に対しては当時は直接の請負関係に立つことはまつたくなかつたものであり,これを直接に使用し支配しているのは前示のような実質的独立性を有する企業主体であるD車体であつて,被上告人がF陸送およびその被用者に対し直接または間接に指揮監督を及ぼす関係にもなかつたものであること,

      以上の事実が認められるというのである。右事実の認定判断は,原判決(その引用する第一審判決を含む。)挙示の証拠に照らして,肯認することができないものではない。

      右事実関係のもとにおいては,当時の本件自動車の運行はF陸送ないしD車体がこれを支配していたものであり,被上告人はなんらその運行を指示・制禦すべき立場になかつたものと認めるべきであつて,

      本件自動車が被上告人の所有に属し,被上告人がその営業として自動車の製作,販売を行なう一過程において本件事故が生じたものであるなど所論の事情を考慮しても,なお,被上告人の運行支配を肯認するに足りないものというべきである。

      したがつて,被上告人が本件自動車の運行を支配していたものとは認められないとして,本件事故につき被上告人の運行供用者責任を否定した原審の判断は,正当として是認することができる。

  • 一夫の運転する自動車に同乗中負傷した妻が自動車損害賠償保障法三条にいう他人にあたるとされた事例
  • 二夫婦の一方が運転する自動車に同乗中負傷した他方の配偶者の自動車損害賠償保障法一六条一項による被害者請求権の有無

S47.05.30 最高(三小)判 事件番号 昭44(オ)722

  • 判決
    • 「自賠法三条は,自己のため自動車を運行の用に供する者(以下,運行供用者という。)および運転者以外の者を他人といつているのであつて,

      被害者が運行供用者の配偶者等であるからといつて,そのことだけで,かかる被害者が右にいう他人に当らないと解すべき論拠はなく,具体的な事実関係のもとにおいて,かかる被害者が他人に当るかどうかを判断すべきである。

      本件において,原審が適法に確定したところによれば,被上告人は訴外D(以下,Dという。)の妻で生活を共にしているものであるが,

      本件自動車は,Dが,自己の通勤等に使用するためその名をもつて購入し,ガソリン代,修理費等の維持費もすべて負担し,運転ももつぱらDがこれにあたり,被上告人個人の用事のために使用したことはなく,被上告人がドライブ等のために本件自動車に同乗することもまれであり,

      本件事故当時被上告人は運転免許を未だ取得しておらず,また,事故当日Dが本件自動車を運転し,被上告人が左側助手席に同乗していたが,被上告人は,Dの運転を補助するための行為を命ぜられたこともなく,また,そのような行為をしたこともなかつた,というのである。

      かかる事実関係のもとにおいては,被上告人は,本件事故当時,本件自動車の運行に関し,自賠法三条にいう運行供用者・運転者もしくは運転補助者といえず,同条にいう他人に該当するものと解するのが相当であり」

      「夫婦の一方が不法行為によつて他の配偶者に損害を加えたときは,原則として,加害者たる配偶者は,被害者たる配偶者に対し,その損害を賠償する責任を負うと解すべきであり,

      損害賠償請求権の行使が夫婦の生活共同体を破壊するような場合等には権利の濫用としてその行使が許されないことがあるにすぎないと解するのが相当である。

      けだし,夫婦に独立・平等な法人格を認め,夫婦財産制につき別産制をとる現行法のもとにおいては,一般的に,夫婦間に不法行為に基づく損害賠償請求権が成立しないと解することができないのみならず,円満な家庭生活を営んでいる夫婦間においては,損害賠償請求権が行使されない場合が多く,

      通常は,愛情に基づき自発的に,あるいは,協力扶助義務の履行として損害の填補がなされ,もしくは,被害をうけた配偶者が宥恕の意思を表示することがあるとしても,

      このことから,直ちに,所論のように,一般的に,夫婦間における不法行為に基づく損害賠償義務が自然債務に属するとか,損害賠償請求権の行使が夫婦間の情誼・倫理等に反して許されないと解することはできず,右のような事由が生じたときは,損害賠償請求権がその限度で消滅するものと解するのが相当だからである。

      そして,本件のように,夫婦の一方の過失に基づく交通事故により損害をうけた他の配偶者が,自賠法一六条一項による被害者の直接請求権に基づき,保険者に対し,損害賠償額の支払を請求する場合には,

      加害者たる配偶者の損害賠償責任は,右の直接請求権の前提にすぎず,この直接請求権が行使されることで夫婦の生活共同体が破壊されるおそれはなく,

      他方,被害者たる配偶者に損害の生じているかぎり,自賠責保険によつてこの損害の填補を認めることは,加害者たる配偶者,あるいは,その夫婦を不当に利得せしめるものとはい
      えず,また,運行供用者の配偶者等を自賠責保険の保護から除外する規定を設けなかつた自賠法の立法趣旨にも合致するものというべきである」

  •  加害車両が被害者たる歩行者に接触しなくても車両の運行と歩行者の受傷との問に相当因果関係があるとされた事例

S47.05.30 最高(三小)判 事件番号 昭46(オ)247

  • 判決
    • ところで、不法行為において、車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係があるとされる場合は、車両が被害者に直接接触したり、または車両が衝突した物体等がさらに被害者に接触したりするときが普通であるが、これに限られるものではなく、

      このような接触がないときであつても、車両の運行が被害者の予測を裏切るような常軌を逸したものであつて、歩行者がこれによつて危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど、衝突にも比すべき事態によつて傷害が生じた場合には、その運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係を認めるのが相当である。

      本件についてこれをみるに、原審の認定した事実によれば、上告人は、訴外D、同E外二名と連れ立つて、暗夜の市道(幅員約三メートル、非舗装)を歩行中、前方からは被上告人が運転する軽二輪車が、

      後方からは訴外Fが運転する原動機付自転車が、それぞれ、接近して来るのを認めたため、右原動機付自転車の方を振り返りながら、右D、E両名に続いて、前方右側の道路端にある仮橋のたもとに避難したところ、

      前方から右軽二輪車が運転を誤り、上告人がまさに避けようとしている仮橋上に向つて突進して来て仮橋に乗り上げたうえ後退して停車し、その際運転者である被上告人の肩が右Eに触れて同人を転倒させ、他方上告人は右仮橋の西北端付近で転倒し、原判示の傷害を受けたというのである。

      右事実関係のもとにおいては、上告人は、同人の予測に反し、右軽二輪車が突進して来たため、驚きのあまり危難を避けるべき方法を見失い、もし、現場の足場が悪かつたとすれば、これも加わつて、その場に転倒したとみる余地もないわけではない。そうだとすれば、上告人の右受傷は、被上告人の軽二輪車の運行によつて生じたものというべきである

  • 判決
    • 【要旨】このように自動車の交通が激しい本件国道の事故現場附近で、さきに認定の様な状態で本件故障車がその</要旨>路上に長時間(本件事故発生まで八七時間位)放置されたままになつていたことは、

      客観的にみて著しい交通の障害であり、高度の危険性を有することであつて、道路管理者としては、本件道路上にかかる状態か発生したときは、一時も早くこれを排除する看視措置がとられねばならない。

      しかるに直接管理事務を担当する県橋本土木事務所においても常時応急の事態に対処し得る看視体制にあつたとは認められず、また、警察においても本件故障車の存在を知り、且つそれが一般通行人も危険を感ずる状態に拘らず、積極的にこれを排除しようとしたことも認められないのであり、

      警察官が道路管理の責任そのものを負うものでないこともちろんであるが、交通の安全を守る立場にあつたものとしての措置が不十分であつたことは否定できず、違法駐車の排除が事実上警察の措置に委せられていた本件の場合、このことも考慮に入れなければならない。

      (この点原審証人Hは、一見して違法駐車状態にあることを知り得なかつたと供述するけれども、前認定の訴外E、Cらを含めバスの乗客らも邪魔と感じていた事実および前認定の駐車状態自体に照らせば、

      少し注意して見ればそれが違法駐車であり、且つ単なる一時的なものではなく、故障車が動かなくなつて駐車されているものであることに気付き得たと認められる。)

      もつとも被控訴人が指摘するように(被控訴人の当審主張二項)、追突事故等のため道路上に障害が生じたことを管理責任者において知り得べくもない程に時間的に接着した時点において次の事故が生じた場合については、

      不可抗力として道路管理者が免責される場合のあることは当然これを認めなければならないのであつて、控訴人の引用する昭和三七年九月四日の最高裁判例も、右のような時点において生じた事故についてまで道路管理者の責任を認める趣旨でないと解せられる。

      しかし、そのような特別の場合を除いて事故車の放置による障害が発生して後相当の時間を経過してもなおそれが除去されない場合は、道路そのものに欠陥の生じた場合と実質上異ならないと見るべきである。

      右相当時間の限界は各道路の具体的状況に応じ個別的に決すべきであるが、本件のごとく事故車放置後三昼夜以上を経過している場合は、まさに右相当の時間を経過したものと謂わなければならない。

      而してこのような場合の交通事故については、予算不足その他如何なる観点によるも不可抗力と見ることはできないので、道路が通常有すべき安全性を欠いたものとして右法条にいわゆる道路の管理に瑕疵があるものに該当し、損害賠償責任が発生すると謂わなければならない。

      それとともに道路管理者のこの責任と、道路に故障車を放置したAB両名の責任とは、たまたま両者が競合したにすぎず、客観的に一個の共同行為と見ることはできないので、

      民法所定の狭義の共同不法行為ではなく、講学上いわゆる併発不法行為に該当するものであるから、各自別個に相当因果関係の範囲において損害を算定すべきであり、その損害が両者に共通の部分についてはいわゆる不真正連帯債務を負うものと解せられる。

      この見地において考えると、本件道路管理の瑕疵が、具体的には訴外Bによる本件故障車の放置により招来されたもので、しかもその駐車状態も違法に道路中央線近くにやや斜めに置かれるなど、異常な放置のしかたであつて、

      管理者にとつて予見可能性が全くないとはいえないまでも、かなり稀な事態であるから、被控訴人については相当因果関係の範囲をABらの場合よりも狭く認定するのが相当である。

      三、本件事故現場附近の国道一七〇号線の管理者か被控訴人和歌山県を統轄する和歌山県知事であり、その管理費用負担者が同被控訴人であることは道路法第一三条ならびに同法第四九条、第五〇条に照らし、また原審証人Gの証言により明らかであるから、被控訴人はこれによる損害を賠償すべき責任がある。

  • 夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と第三者の運転する自動車との衝突により損害を被つた場合において夫にも過失があるときと民法七二二条二項

S47.03.25 最高(一小)判 事件番号 昭47(オ)457

  • 判決
    • 民法七二二条二項が不法行為による損害賠償の額を定めるにつき被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは,不法行為によつて発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであると考えられるから,

      右被害者の過失には,被害者本人と身分上,生活関係上,一体をなすとみられるような関係にある者の過失,すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される。

      したがつて,夫が妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが,右第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため,傷害を被つた妻が右第三者に対し損害賠償を請求する場合の損害額を算定するについては,

      右夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り,夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができるものと解するのを相当とする。

  • 下請負人に名義を貸与している元請負人が下請負人の被用者の起こした事故につき運行供用者責任を負わないとされた事例

S46.12.07 最高(三小)判 事件番号 昭46(オ)723

  • 判決
    • 要旨
      甲所有の自動車につき判示のように乙の名義が使用されており,甲の営む残土運搬業の全仕事量の約五割は乙からの下請にかかるものであつたが,

      甲乙間に,業務上の専属関係や,資本,役員,営業財産等における緊密な一体性があるものではなく,下請業務に関する現実の指揮監督もなされていなかつたなど判示の事実関係のもとにおいて,

      甲の被用者が右自動車を運転し,甲の第三者からの下請作業に従事中に起こした事故については,乙は,運行供用者としての責任を負わないものと解すべきである。

  • 下請負人の被用者の起こした事故につき元請負人が運行供用者責任を負うとされた事例

S46.12.07 最高(三小)判 事件番号 昭46(オ)35

  • 判決
    • 要旨
      埋立用のぼたの運搬の仕事の請負人甲からその一部を下請けした乙の被用者丙が,乙所有の貨物自動車を運転中に事故を起こした場合において,

      甲は,乙から自動車および丙ら運転手の派遣を受け,甲の被用者とともに甲の指揮監督のもとに,仕事に従事させていたものであり,

      事故当時は,丙が作業開始前,朝食をとつたうえで作業現場に赴くため,食堂に行く途中であつたなど判示の事実関係があるときは,甲は右事故につき自動車損害賠償保障法三条による運行供用者としての責任を負う。

  •  自動車の貸主に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が認められた事例

S46.11.16 最高(三小)判 事件番号 昭45(オ)39

  • 判決
    • すなわち,もと本件自動車は,自動車の販売会社である上告人が,昭和四一年一〇月末頃他からいわゆる下取車として受領したうえ,所有し保管していたものであるが,

      上告人はこれを同年一一月一一日訴外(第一審相被告)Fに貸与したところ,その貸与中に,同人の被用者である訴外Eが運転して本件事故を惹起した。

      右の貸借というのは,上告人が,同年一一月九日右Fに中古車一台を代金二六万円余で売却する旨の売買契約を締結した際,右売却車について整備,登録,車検等の手続を了するまでの一〇日余の間,Fから代りの車を貸してほしい旨依頼され,

      右売却車を引き渡すのと引換えに返してもらう約束で暫定的になされたものであり,それは,上告人の顧客に対する一種のサービスであつた。

      かくて,訴外Fは,上告人から,できるだけ車を大切に使用してくれるようにいわれて本件自動車を借り受け,訴外Eに運転させ,主として自己の塗装業の注文とりに使用していた。

      当時,右自動車は,ブレーキが効きにくかつたほか原判示のような整備不良の状態であつたので,Eが,本件事故発生の三日位前に,上告人のG営業所の係員に修理してほしい旨申し入れたが,

      同係員から,そのまま乗つていてくれといわれ,仕方なくそのまま使用をつづけるうち,仕事の注文とりに行つた帰途,本件事故がおきたのであつて,右整備上の不良も本件事故発生に関係がないとはいいえないものがあつた。

      右に見てきたような事実関係のもとにおいては,上告人は,右事故当時,本件自動車に対する運行支配および運行利益を有していたものということができ,したがつて,上告人は,自賠法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者に当たるというべきであり,同条の責任を免れない。

      原審は,右のように判示して上告人に自賠法三条の責任を認めたのであるが,原審の右判断は,正当として是認すべきものである

  • 自動車の有料貸渡業者から自動車を借り受けた者の運行による事故につき貸渡業者に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が認められた事例

S46.11.09 最高(三小)判 事件番号 昭43(オ)585

  • 判決
    • 原審が適法に確定した事実関係,ことに,上告会社は,自家用車の有料貸渡を業とするものであるが,その所有自動車についての利用申込を受けた場合,免許証により,申込者が小型四輪自動車以上の運転免許を有し,原則として免許取得後六月経過した者であることを確認し,

      さらに一時停止の励行,変速装置,方向指示器の操作その他交通法規全般について同乗審査をなし,かかる利用資格を有する申込者と自動車貸渡契約を締結したうえで自動車の利用を許すものであること,

      利用者は,借受けに際し届け出た予定利用時間,予定走行区域の遵守および走行中生じた不測の事故については大小を問わず上告会社に連絡するよう義務づけられていること,

      料金は,走行粁,使用時間,借受自動車の種類によつて定められ,本件自動車と同種のセドリツク六二年式の場合,使用時間二四時間・制限走行粁三〇〇粁で六〇〇〇円に上ること,燃料代,修理代等は利用者負担とされていること,

      使用時間は概ね短期で,料金表上は四八時間が限度とされていること,訴外(第一審被告)Dは,上告会社から以上の約旨のほか,

      同人が前記利用資格に達していなかつたため,特に,制限走行粁三〇〇粁,山道,坂道を走行しないことを条件に上告会社所有の本件自動車を借り受けたものであること,

      本件事故は訴外Dが本件自動車を運転中惹起したものであること等の事実関係のもとにおいては,

      本件事故当時,上告会社は,本件自動車に対する運行支配および運行利益を有していたということができ,

      自動車損害賠償保障法(以下,自賠法という。)三条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者(以下,運行供用者という。)としての責任を免れない旨の原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の判断は,正当として是認することができる。

  • 弁護士法七二条本文の法意

S46.07.14 最高(大法廷)判 事件番号 昭44(あ)1124

  • 判決
    • 弁護士法七二条本文は、弁護士でない者が、「報酬を得る目的で、法律事件に関し、法律事務を取り扱うこと」および「これらの周旋をすることを業とすること」を、それぞれ禁止するもので、前者については業とすることを要せず、後者については報酬を得る目的のあることを要しないと解し、これに基づいて各判決をしたことが明らかである。

      ところで、同条制定の趣旨について考えると、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、

      世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。

      しかし、右のような弊害の防止のためには、私利をはかつてみだりに
      他人の法律事件に介入することを反復するような行為を取り締まれば足りるのであつて、同条は、たまたま、縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもつて目すべき行為までも取締りの対象とするものではない。

      このような立法趣旨に徴すると、同条本文は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、同条本文所定の法律事務を取り扱いまたはこれらの周旋をすることを禁止する規定であると解するのが相当である。

      換言すれば、具体的行為が法律事務の取扱いであるか、その周旋であるかにかかわりなく、弁護士でない者が、報酬を得る目的でかかる行為を業とした場合に同条本文に違反することとなるのであつて、

      同条本文を、「報酬を得る目的でなす法律事務取扱い」についての前段と、「その周旋を業とすること」についての後段からなるものとし、前者については業とすることを要せず、後者については報酬目的を要しないものと解すべきではない。

      この見解に反する当裁判所従来の判例(昭和三七年(オ)第一四六〇号同三八年六月一三日第一小法廷判決、民集一七巻五号七四四頁、同三七年(あ)第六七三号同三九年二月二八日第二小法廷決定、刑集一八巻二号七三頁等)はこれを変更する。

  •  無断私用運転中の事故につき所有者に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が認められた事例

S46.07.01 最高(一小)判 事件番号 昭45(オ)267

  • 判決
    • ところで,一般に,自動車が修理のために自動車修理業者に預けられている間は,修理業者がその運行を支配すると解されるのであるが,修理を終えた自動車が修理業者から注文者に返還されたときには,特段の事情のないかぎり,その引渡の時以後の運行は注文者の支配下にあるものと解すべきところ,

      右の確定事実関係によれば,上告人から本件自動車を修理に出すことを依頼されてその前後の管理を一任されていたFが,修理工場から本件自動車を引き取ることをHに指示し,Hの意を受けたEが修理工場に赴き修理業者から本件自動車の引渡を受けたというのであり,

      本件自動車がEに引き渡されたことは,原判示のように上告人の了解の範囲内のことであつたと解するのが相当であるから,E,Hらの内心の意図いかんにかかわらず,客観的には,右引渡により上告人が本件自動車の運行に対する支配を取得したものと認めることができる。

      そして,その後,Eが本件自動車を組合事務所のFの許に届ける予定のもとに,Fに無断で私用のため本件自動車を運転して新潟市から長岡市まで赴いただけでは,いまだ上告人の運行支配が排除されたものとはいえないとした原判決の判断も,正当として是認することができる。

      さらに,論旨は,原判決が運行利益の帰属の有無について判断をしていないことを違法と主張する。

      しかし,右の確定事実関係によれば,上告人,FおよびEないしHとの間には前示のような関係があり,Eは,上告人のためにするものとして修理業者から本件自動車の引渡を受け,その運行を開始したのであり,

      前示の事情のもとで私用のため運転したことも,Fひいては上告人に本件自動車を届ける過程における一齣の出来事とみられるのであつて,

      当時のEの運行を全体として客観的に観察するとき,本件自動車の運行が上告人のためになされていたものと認めることができるのである。

      原判決も,このような趣旨において,前示事実関係を判示することにより,とくに上告人への運行利益の帰属につき説示することがないとしても,おのずから,これを肯定したものと解することができる。

      したがつて,前示確定事実関係のもとにおいて,本件事故により被上告人の被つた損害の賠償につき,上告人が自動車損害賠償保障法三条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者としての責任を負うべきであるとした原判決の判断は正当であり





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